故郷をつくる

〈札幌国際芸術祭2014〉

500m美術館 北海道のアーティストが表現する「都市と自然」-「時の座標軸」- 参加作品

・《故郷をつくる》吸取紙、雁皮紙、紙、染料、生麩糊、土、モルタル、ピアノ線 2014

①札幌で暮らし始めて1年目の冬、地図を元に道路と河川のみを紙に複写した作品を制作した。サイジングを施していない紙(耐水性向上剤を加えていない)に鉄筆で傷痕を付けただけの見た目には白いだけの作品である。この作品は札幌でお世話になったある方へ向けて「往来、なけなし」というタイトルで制作した。当時の作品を見た市民から「本当の札幌を知ったような気がした」と言葉を頂いた。この街で暮らす人にとっての「本当の」とはどういうことだろうか。状況によって如何様にも変化し、昨日のことが無かったかのような暮らしが慣習ともなれば、故郷は体を遠く離れたいつかの場所でしか感じられなくなってしまうだろう。地図も景観も風の流れ方も日々、我々の手や思考によって更新される。本当の故郷をつくらなければならないその手や思考が本来のかたちや色を失くしてしまう要素であることも忘れてはならない。

②情報を極端に削ぎ落とした白地図、札幌での生活から感受した風土を象った紙、ものごとを作り出す要としての手、それらの組み合わせから故郷の在り方につい て問う作品を制作。

③白地図中央、長方形の立体を設置。(札幌市中央区北5西8)伊藤邸。伊藤義郎・伊藤組土建名誉会長(札幌市商工会議所名誉会頭)の邸宅敷地問題は札幌市から都市と自然を考えるにあたって、現在進行中のものとしては最も興味深い問題である。自然を残しながら高層マンションの開発を進めたい土地所有者の意向と、自然を守りたい市民の主張が市議会を中心として慎重に審議されている。敷地面積は約1・4ha、敷地内には開拓当時の自然が残されている。多くの樹木が生い茂り、豊平川の伏流水が湧き出るメム跡も存在する。